「手取りは減るいっぽう」なのか

「手取りは減るいっぽうだ」と思っていませんか。税や社会保険料の負担が重くなって、給料が上がっても手元に残るお金は目減りしていく——こうした感覚は広く共有されています。ですが、まず答えから言います。総務省統計局「家計調査」によれば、二人以上の世帯のうち勤労者世帯の可処分所得は、2025年の1か月平均で532,408円です。実はこれ、比較できる2000年以降でいちばん高い値です。減り続けているはずの数字が、最高値を更新している。通説は一次データと突き合わせて、測りなおしてみる必要がありそうです。

四半世紀の推移を測る

FIG.1可処分所得(二人以上の世帯のうち勤労者世帯・1か月平均・全国)単位:
出典: 総務省統計局「家計調査」(2000–2025)

起点の2000年、可処分所得は月あたり474,411円でした。そこから十年あまり、数字は下がり続けます。途中には世界的な金融危機の直後の落ち込みもありますが、いちばん低かったのはそのあとです。底は2011年の420,538円。東日本大震災の年です。しばらくは底に近い水準が続き、2018年ごろから上向きに変わります。そして最新の2025年、532,408円で系列の最高値に届きました。

起点から最新までの変化は57,997円の増加で、倍率にすると1.12倍。四半世紀でざっくり一割の伸びです。ただ、道のりは一様ではありません。前半で減って、後半で取り返して上回った。グラフの形はそう要約できます。ここまでは淡々とした測定の結果です。

最大の跳ねは、統計改正の年ではない

上向きに転じたように見える2018年には、注釈がつきます。この年、調査で使う家計簿などが改正されていて、前後の数字を比べると、改正の影響による変動が含まれます。だとすると、「後半の上昇は統計の作り替えが生んだ見かけにすぎない」と片づけたくなります。ただ、一次データには、その読み方だけでは説明のつかない一点があります。私たちが注目したいのは、この一点です。

四半世紀でもっとも大きな一年間の跳ねは、改正の年ではなく、2023年から2024年にかけて起きました。494,668円から522,569円へ。この一段の増加幅は、起点から最新までの総変化のおよそ半分にあたります。しかもこの区間は改正をまたいでいません。制度が変わったせいだ、とは言えない跳ねです。

似た動きは過去にもありました。感染症下の一律給付が実収入を押し上げたとされる2020年の増加です。ただ、あのときは翌年に反落しました。今回は違います。跳ねた翌年の2025年も、532,408円へと更新が続きました。背景には近年の賃上げの広がりとの関連が指摘されていますが、データが示すのはあくまで推移であって、因果ではありません。ここで確かめられるのは、直近の増加が一度きりの跳ねで終わっていない、という時点どうしの事実までです。

「減り続けている」という通説は、おそらく、下降が続いた前半の記憶をそのまま最新まで引き延ばしたものでしょう。記憶は更新されにくく、数字は更新されます。目盛りをどの区間に当てるかで、同じ系列は別の顔を見せます。全期間で測れば「一度沈んで浮上した」。直近だけを測れば、四半世紀で最大の段差を越えた直後、ということになります。

この数字の読み方の注意

可処分所得は、実収入から直接税や社会保険料などの非消費支出を差し引いた額で、いわゆる手取りにあたります。この統計の対象は二人以上の世帯のうち勤労者世帯に限られ、無職の世帯や個人営業などの世帯は含まれません。そのため、たとえば年金で暮らす世帯の実感とはずれることがあります。また2018年に調査で使う家計簿などの改正が行われていて、この年を含む、またはまたぐ時系列の比較には、改正の影響による変動が含まれます。本稿で示した前半と後半の対比も、その分を割り引いて、傾向ではなく時点どうしの比較として読む必要があります。