「上がっているのは私立だけ」という感覚

教育費の話になると、よく聞く感覚があります。値上がりしているのは私立で、公立は無償化や就学支援のおかげで、むしろ身軽になっているはず——そう思っていませんか。

まず、いちばん知りたい数字から。文部科学省「子供の学習費調査」によれば、幼稚園3歳から高校3年までの15年間をすべて公立で通った場合、学習費総額は平均614万円。すべて私立なら平均1969万円です(2023年度調査)。差はざっくり三倍です。ちなみに、この額に大学の費用は入っていません。一方で、塾や習い事といった学校外活動費は入っています。

推移は小学校六年間の総額で測れる

15年間の総額は、最新調査の一時点の値です。推移を追うなら、同じ調査にある小学校6年間の学習費総額を見るのがよさそうです。

FIG.1小学校6年間の学習費総額(公立・全国)単位:
出典: 文部科学省「子供の学習費調査」(2012–2023)

公立小学校の6年間総額は、2012年度が1,829,736円、2023年度が2,197,261円です。いちばん低いのは起点の2012年度、いちばん高いのは最新の2023年度。時点間で比べると、367,525円増えています。

FIG.2小学校6年間の学習費総額(私立・全国)単位:
出典: 文部科学省「子供の学習費調査」(2012–2023)

私立小学校も向きは同じです。2012年度の8,538,499円が、2023年度には10,457,700円になりました。途中の2016年度に少しへこみはありますが、最小は起点、最大は最新という並びは公立と変わりません。

意外な一点 伸び率は公立も私立もほぼ同じ

冒頭の通説に戻ります。上がっているのは私立だけで、公立は据え置き。このデータは、その半分を否定します。

起点から最新までの倍率を出してみると、公立は1.20倍、私立は1.22倍。どちらもおよそ二割の増加で、伸び率だけを見るとほとんど区別がつきません。公立と私立は別々の坂を歩いているように見えて、傾きを測ればほぼ同じだった、ということです。

もちろん、増えた金額そのものは私立のほうが大きいです。1,919,201円と367,525円で、およそ五倍の開きがあります。それでも「公立を選べば教育費の上昇とは無縁でいられる」という感覚は、少なくともこの十余年の時点間比較とは合いません。

手がかりは定義にあります。学習費総額には、学校に納めるお金だけでなく、塾や習い事など学校外活動費も含まれます。授業料が制度で抑えられていても、総額は動きうるわけです。もっとも、どの費目が公立の総額を押し上げたのかは、この合計だけでは読めません。公立を選べば上昇から自由でいられるのか。この数字は、その問いを開いたまま残しています。

この数字の読み方の注意

学習費総額は、保護者が子どもの学校教育と学校外活動のために支出した経費の合計で、大学の費用は含みません。15年間や6年間の総額は、各学年の平均年額を単純に足し合わせたもので、実在の一人の子どもを追いかけた額ではありません。調査は隔年で、2018年度と2021年度の間には実施されなかった回による欠測があります。さらに2021年度調査から調査内容・方法の変更があるため、それ以前の値との単純な比較には注意が要ります。この記事で「傾向」ではなく時点間の比較として書いたのは、そのためです。また、私立小学校に通う児童は全体のごく一部で、私立の平均は少数事例の平均だという点にも気をつけたいところです。