通説への直答——最新の平均はいくらか

一人暮らしの食費は、物価と一緒に上がり続けてきた。検索窓にこの言葉を打ち込むとき、多くの人はそう感じているのではないでしょうか。まず答えから。総務省統計局「家計調査」によれば、単身世帯が食料に使うお金は、2025年の月平均で49,321円です。外食も含んだ金額で、調査期間を通じた最高値でもあります。ここまでは通説どおりに見えます。ただ「上がり続けてきた」の部分は、原データで測りなおしてみる価値があります。

四半世紀の折れ線を測る

FIG.1食料への支出(単身世帯・1か月平均・全国)単位:
出典: 総務省統計局「家計調査」(2000–2025)

起点の2000年、月平均は47,346円でした。最新の49,321円との差は1975円、倍率にすると1.04倍。四半世紀の両端を比べた純増としては、正直なところ意外なほど小さい数字です。

折れ線の形も、右肩上がりの坂ではありません。起点からしばらくはむしろ水準を下げていて、2010年には42,099円まで下がっています。その後も長いあいだ、起点を下回る水準を行ったり来たりしていました。いちばん低かったのは2020年の41,373円。この系列は外食を含むので、感染症下で外出や外食が控えられたことが背景にあるとされています。そこから水準は上向きに転じ、最新年がそのまま最高値の49,321円になりました。底から頂までの動きは、期間の終盤に集中しています。

純増より大きい、単年の跳ね

この系列で前の年からの動きがいちばん大きかったのは、2022年から2023年にかけてです。43,276円から46,391円へと増えました。この1年分の増加幅は、起点から最新年までの純増1975円より大きい。つまり、四半世紀かけて積み上がった差より、たった1年の跳ねのほうが大きいわけです。

そう考えると「上がり続けてきた」は、正確な言い方ではありません。期間の大半で水準はむしろ起点を下回っていて、増加は終盤に固まっていました。物価高の実感そのものは、数字と矛盾しません。ただそれは長い坂ではなく、直近に現れた段差です。

なお、この跳ねは後述する家計簿の改正時点をまたいでいません。調査方法の変更がつくった見かけの動きではない、という点は添えておきます。

この段差は、自分の食費を平均と比べるときにも効いてきます。しばらく前に見聞きした「平均」の記憶と最新値のあいだには、この跳ねが挟まっています。古い相場観のまま最新の数字を見れば、実際より高く感じるはずです。逆に、いま自分の食費が平均を下回っていたとします。それが節約の成果なのか、単に外食が少ないだけなのかは、この数字だけではわかりません。それに平均という指標は、少数の大きな支出に引っ張られやすい性質を持っています。平均は分布のなかでの自分の位置の目安にはなりますが、その理由までは教えてくれません。

平均を知りたいと思うとき、その底には「自分はふつうなのか」という問いがあるのではないでしょうか。数字はその位置を示してくれます。でも、ふつうであることの意味までは示してくれません。その問いは、数字の外に残ります。

この数字の読み方の注意

この系列は総務省統計局「家計調査」の品目分類「食料」・単身世帯・全国の値で、外食のほかに贈答用の食料品への支出も含みます。自炊の食材費だけを指す数字ではありません。また、e-Statの年次表は年間の合計額なので、月数で割って月平均に換算しています。さらに2018年には調査で使う家計簿などの改正が行われていて、この年を含む期間やまたぐ期間の比較には、改正の影響による変動が含まれます。本文で示した起点と最新年の比較も、なめらかな傾向の断定ではなく、時点間の比較として読んでください。