「最後の十年は健康でない」は本当か

長生きしても、最後の十年ほどは健康に過ごせない。健康寿命という言葉が広まってから、この見方はほとんど常識のように語られてきました。まず、最新の公表値を確かめます。平均寿命は男性81.35年、女性87.33年(いずれも2025年)。健康寿命は男性72.57年、女性75.45年(同2022年)です。参照年は揃いませんが、単純に引き算すると、差は男性でおよそ九年、女性でおよそ十二年。通説は、量としてはだいたい合っています。ただ、本当に確かめたいのはもうひとつの通説のほうです。この差は「広がり続けている」のでしょうか。

二本の線を並べて測る

FIG.1健康寿命(男)単位:
出典: 厚生労働省「健康寿命の公表資料(健康日本21推進専門委員会)」(2001–2022)
FIG.2健康寿命(女)単位:
出典: 厚生労働省「健康寿命の公表資料(健康日本21推進専門委員会)」(2001–2022)

健康寿命の公表は三年に一度です。男性は2001年の69.40年から72.57年まで、3.17年延びました。女性は72.65年から75.45年へ、2.80年の延びです。一方の平均寿命(この記事で収録しているのは2007年以降です)は、男性が79.19年から81.35年へ、女性が85.99年から87.33年へと延びています。頂点の位置にも特徴があります。平均寿命は男女とも2020年が頂点で(男性81.64年、女性87.74年)、その後いったん下がり、直近で持ち直しました。健康寿命のほうは、男性の頂点が2019年の72.68年、女性は最新の2022年が最高値です。どちらの線も、向きは上です。

意外な一点——差は縮む方向にある

差の動きをきちんと測るには、二つの系列が重なる年どうしで引き算するしかありません。まず男性です。両方の数字がそろう最初の年、平均寿命は79.19年、健康寿命は70.33年でした。直近でそろう年では、平均寿命81.05年に対して健康寿命72.57年。引き算すると、差は広がっていません。むしろ、わずかに縮んでいます。女性も同じです。85.99年と73.36年の開きは、87.09年と75.45年の開きより大きいのです。伸び幅を比べても話は合います。健康寿命の伸び(男性3.17年、女性2.80年)は、平均寿命の伸び(男性2.16年、女性1.34年)を上回ります。ただし、二つの計測期間は一致しないので、この比較はあくまで目安にとどめてください。それでも、重なる年どうしで引き算するという一番素朴な物差しが示すのは、「不健康な期間が延びる一方だ」という語りとは逆向きの事実です。寿命が延びるとは、弱った晩年が引き延ばされることなのか、それとも健康な時間が積み増されることなのか。少なくともこの十数年の日本の数字は、後者を指しています。もちろん、差が縮むことと晩年がよくなることは同じなのか、という問いは残ります。ただ、数字を確かめないまま前者だけを語るのは、測らずに嘆くことに近いと思います。

この数字の読み方の注意

健康寿命は「日常生活に制限のない期間の平均」と定義されていて、公表は三年ごと。国民生活基礎調査の大規模調査年に対応します。厚生労働省は、令和4年値が前回(令和元年値)と比べて男性で短縮、女性で延伸したものの、いずれも統計的に有意な差は見られなかったと注記しています。平均寿命は0歳時点の平均余命です。掲載している数値は四捨五入されているため、引き算の結果が公表値と厳密には一致しない場合があります。また、この記事の平均寿命の収録は2007年以降に限られ、それ以前と接続した長期比較は行っていません。

出典:厚生労働省「生命表(簡易生命表)」、厚生労働省「健康寿命の公表資料(健康日本21推進専門委員会)」