「眠れていない国」という通説
「日本人はあまり眠れていない」——そんな話をよく耳にしませんか。国際的な比較でも睡眠時間が短いと報じられ、「睡眠負債」という言葉も定着しました。「年々、日本人の睡眠時間は削られている」と感じている方は多いはずです。 まずは結論からお話しします。総務省の調査(社会生活基本調査)によれば、直近の2021年のデータで、日本人の平均睡眠時間は「八時間弱(474分)」でした。世間で言われている「寝不足」というイメージとは、少し違う結果が見えてきます。
3つの調査で見る変化
この調査は5年ごとに実施される、言わば生活時間の「定点観測」です。同じ基準で測定した過去3回分のデータを並べてみましょう。 2011年:462分 2016年:460分(わずかに減少) 2021年:474分(増加) 2016年を底にして、最新の調査である2021年には睡眠時間が増えていることがわかります。期間全体で見ると十二分増えており、最新の調査結果が、この三つの調査時点の中では最も長い時間となっています。
数字の裏側にある「本当の理由」
では、「日本人はよく眠るようになった」と単純に喜んでいいのでしょうか。少し冷静に捉える必要があります。 このデータが取られた2021年は、コロナ禍による行動制限が解除された直後でした。テレワークの普及や外出自粛などにより、人々の生活スタイルが大きく変わっていた時期です。この睡眠時間の増加には、パンデミックという特殊な環境による影響が大きく関わっていると考えられます。 ですから、この結果だけで「日本人の睡眠時間の減少傾向が完全に反転した」と断言するのは早計です。しかし、一つ確実に言えることがあります。少なくとも最新の調査結果を見る限り、「日本人の睡眠時間は一貫して減り続けている」という説は、データで裏付けられていないということです。
「時間」だけではない、睡眠の質という視点
「八時間弱」という数字に安心した方もいるかもしれませんが、睡眠で大切なのは「長さ」だけではありません。同じ八時間でも、ぐっすり眠れた時と、何度も目が覚めてしまった時では、翌朝のすっきり感が全く違いますよね。 例えば、寝る直前までスマートフォンを見ていませんか?画面から出る強い光は、眠りのリズムを整える物質の邪魔をしてしまいます。また、寝室の温度や湿度、お気に入りの枕など、リラックスできる環境づくりも、睡眠の「質」を高めるための大切な一歩です。まずは「今日から、寝る三十分前はスマホを置いて深呼吸してみよう」といった小さな習慣から始めてみませんか?
平均値の罠:数字で見えない個人のリアル
もう一つ忘れてはならないのが、統計の「平均」という言葉の裏側です。全国平均が八時間弱だとしても、それはあくまで全体を混ぜ合わせた結果に過ぎません。 長時間通勤をしている方や、夜勤のある仕事、育児で細切れの睡眠を余儀なくされている方など、一人ひとりの事情は千差万別です。平均値という「物差し」に自分の生活を無理に当てはめて、一喜一憂する必要はありません。大切なのは、日中に元気に過ごせる「自分にとってのベストな睡眠」がどれくらいかを知ることです。数字よりも、あなた自身の身体の感覚を信じてあげてください。
この数字を読み解くときの注意点
このデータを読む際は、以下の二点に注意してください。 特別な環境下での数値: コロナ禍での生活スタイルの変化が、数字に大きく影響している可能性があります。 調査条件の違い: 途中で調査方法などが変更されているため、過去のデータと単純に比較する際は注意が必要です。 あくまで「特定の時点ごとの比較」として捉え、傾向を決めつけずに慎重に読み解くのが賢明といえるでしょう。