「共働き世帯が増えたから、女性の家事負担は減っているはず。男女の家事時間の差も、きっと縮まっているだろう」。そんなふうに感じている方は多いかもしれません。ニュースやSNSでも「家事のシェア」という言葉をよく耳にするようになり、少しずつ平等に近づいているという物語を、私たちはなんとなく共有しています。 しかし、実際のところデータはどう語っているのでしょうか? 総務省統計局の「社会生活基本調査」をもとに、この十年間の変化を深掘りしてみましょう。
まずは今の状況を確認
最新の調査(2021年)によると、10歳以上の日本人が1日に行う平均的な家事時間は以下の通りです。 男性の家事時間:25分 女性の家事時間:146分 差はおよそ二時間。女性のほうが男性の六倍近い時間を家事に充てているという結果です。確かに数字の上では差が縮まっているものの、依然として大きな開きがあることがわかります。
この十年間で何が起きたのか?
この調査は5年ごとに行われています。過去3回分(2011年、2016年、2021年)のデータを比較してみると、興味深い変化が見えてきます。 男性の家事時間:2011年の18分から、2021年には25分へと「約四割」増加しました。 女性の家事時間:2011年の152分から、2021年には146分へ減少しました。 「女性の負担が減り、男性の負担が増えた」という、私たちが期待する通りの変化が起きているように見えますよね。しかし、この数字をさらに詳しく見ていくと、もっと複雑な事情が浮かび上がってきます。
意外な事実:直近5年で「両方増えている」
最も注目すべきは、直近の五年間(2016年〜2021年)の変化です。この期間、男性の家事時間は19分から25分へと順調に増えました。しかし驚くことに、同じ期間、女性の家事時間は減っておらず、逆に144分から146分へと微増しているのです。 「差が縮んだ」と聞くと、天秤の片側(女性)から重りを下ろして、もう片側(男性)へ移したような光景を想像しがちです。しかし実際には、「両方の皿に重りが載り、より軽い皿(男性)により多く載った」という事態が起きていたのです。
なぜ家事時間は増えたのか?
このデータの背景には、2021年特有の事情があります。調査が実施されたのは、コロナ禍による緊急事態宣言などが解除された直後でした。テレワークの普及や外出自粛により、多くの人が自宅で過ごす時間が増えた時期です。この特殊な環境下で、生活のスタイルが大きく変化し、結果として男女ともに家事にかける時間が増えたと考えられます。 つまり、この「家事時間の増加」が、今後も続く長期的な傾向なのか、それともコロナ禍という特殊な時期の一時的な現象なのか、現時点では断言できません。男性が家事をする時間はこれからさらに伸びるのか、それとも元の水準に戻ってしまうのか。その答えは、次の調査を待つ必要があります。
このデータを読む際の注意点
最後に、この統計を読み解く上で知っておいていただきたいことがあります。
- 「家事」の定義:ここで言う「家事」とは、食事の支度や掃除などの一般的な家事を指します。育児や介護、買い物などは含まれません。そのため、家庭生活のすべてを網羅しているわけではないことに注意が必要です。
- 時系列の考え方:調査の手法は年月とともに少しずつ変わっています。そのため、この数字は「なめらかなグラフ」としてではなく、「特定の時点ごとのスナップショット」として捉え、独立した出来事どうしを比較するくらい慎重に見るのが安全です。 「データは正直」と言われますが、数字の裏側にある「なぜ?」を想像しながら読み解くことで、私たちの暮らしの変化をより深く理解できるのではないでしょうか。