通説――「毎年伸び続けている」

まず結論から。日本の平均寿命は、最新の2025年時点で男81.35年、女87.33年です(厚生労働省「生命表(簡易生命表)」、厚生労働省)。

世間の通説はこうです。医療の進歩とともに、日本人の寿命は毎年少しずつ、しかし確実に更新され続けている――。長期の方向として、この感覚は正しいものです。ただ「更新され続けている」の部分は、一次データと突き合わせると事実とずれます。男女とも、最高値は最新年ではありません。頂はすでに数年前にあります。

一次データで測る――増加、ただし一直線ではない

FIG.1平均寿命(男)=0歳の平均余命単位:
出典: 厚生労働省「生命表(簡易生命表)」(2007–2025)

収録の起点である2007年、平均寿命は男79.19年、女85.99年でした。最新年までに男は2.16年、女は1.34年伸びています。全体の方向は明確な増加で、ここに争いはありません。

ただ、線は一直線ではありません。男の最低値は起点の2007年ですが、女の最低値は起点ではなく2011年に記録されています。東日本大震災の年です。震災の犠牲がその年の死亡率を押し上げたことが背景にあるとされています。翌年には男79.94年、女86.41年へと戻り、この一年間の振れが収録期間で最大の変動幅となりました。

実はこれ、平均寿命という数字の性格をよく表しています。平均寿命は個人の寿命の予測ではなく、その年の社会全体の死亡率から計算される測定値です。だから、大きな災厄の年には目盛りが下がり、条件が戻れば目盛りも戻ります。折れ線を目で追うと、2007年から2020年までは、震災の年を除いて男女ともほぼ毎年の上昇が続いていました。通説ができたのは、おそらくこの局面の記憶からです。

意外な一点――頂は2020年、まだ戻っていない

通説が見落としているのは、ピークの位置です。男女とも最高値は2020年に記録されました。男81.64年、女87.74年です。その後の二年で数値は下がり(男は81.47年から81.05年へ、女は87.57年から87.09年へ)、直近は持ち直したものの、最新値はまだピークに届いていません。この低下の時期は新型コロナウイルス感染症の流行期と重なっており、その影響との関連が指摘されています。

つまり日本の平均寿命は、記録更新の連続ではなく、数年にわたる足踏みの途中にあります。もちろん、震災後の回復が示すとおり、足踏みが下り坂の始まりだと断定する根拠もありません。データが示すのは、上昇が自動的に続く自然法則ではなく、その年ごとの条件に左右される測定結果だという事実だけです。

「進歩は不可逆だ」と、私たちはどこかで信じています。でもこの数字の前では、その信念も検証されるべき仮説のひとつにすぎません。頂を再び越える年は来るのでしょうか。それは来年の生命表が答える問いであって、通説が先取りしてよい問いではありません。答えを急がず、来年の公表を待ちたいと思います。

この数字の読み方の注意

平均寿命とは「0歳の平均余命」のことです。その年の各年齢の死亡率が将来も続くと仮定して計算した値で、今年生まれた子どもが実際に生きる年数の予測ではありません。公表値は四捨五入されているため、本文の差や比を手元で計算し直すと、対応する公表数値と合わない場合があります。また、本記事が参照できたのは2007年以降の収録分に限られます。戦後からの長期推移は、厚生労働省「生命表(簡易生命表)」の原資料で確認できます。