「日本人は昔から、ほとんど誰もが結婚してきた。五十歳まで未婚でいるのは、ごく最近になって生まれた例外だ」。生涯未婚率について、こんな通説を聞いたことはないでしょうか。
まず、いちばん知りたいところから答えます。国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」によれば、生涯未婚率──統計の正式な名前は「50歳時の未婚割合」です──の最新値は、2020年時点で男 28.25%、女 17.81%。男女とも、この値は系列全体でいちばん高い数字でもあります。つまり通説の前半、「上がってきた」という認識は数字と合っています。ここで測りなおしたいのは後半、「昔からの皆婚」という部分です。
一次データで測る──百年の定点観測
この系列は国勢調査にもとづいていて、国勢調査の年の値だけでできています。調査と調査のあいだの年は欠測です。
始まりは一九二〇年。男 2.17%、女 1.80%でした。そこから百年後の最新値まで、男は 26.08ポイント、女は 16.01ポイント上がっています。倍率にすると、男はざっくり十三倍。長い目で見れば方向ははっきり増加で、上がり幅は女より男のほうが大きい、ということになります。
ただ、上がり方は一本調子ではありません。二十世紀の前半は男女とも低い水準のままで、上昇が数字にはっきり出てくるのは世紀の後半からです。男で追いかけると、一九八〇年の 2.60%から、一九九〇年の 5.57%、二〇〇〇年の 12.57%、二〇一〇年の 20.14%へと、調査のたびに段差が大きくなっていきます。隣り合う調査のあいだで最も大きく動いたのは、男女とも二〇〇〇年から二〇一〇年の区間でした。もっとも、ここは十年幅の区間です。五年幅で刻まれる近年の区間と、上げ幅をそのまま比べることはできません。
意外な一点──「皆婚」の底は伝統ではなく、戦後にある
通説は「昔から皆婚だった」と言います。ところが、系列の中で未婚割合がいちばん低いのは、記録の始まりである一九二〇年ではありません。男の最低値は一九六〇年の 1.26%、女の最低値は一九五〇年の 1.35%。統計が始まった一九二〇年の男 2.17%と比べても、戦後の一九六〇年のほうが低いのです。系列は右肩上がりの一本道ではなく、いったん沈んでから立ち上がる形をしています。
ここが、この記事で言いたい一点です。「皆婚社会」は、太古から続いてきた当たり前の状態としてではなく、二十世紀の半ばにいちばん深まった、ある時期の姿として記録に残っています。底がなぜその時期に来たのか、その理由をこの系列から読むことはできません。データが示すのは割合の推移であって、因果ではないからです。ただ、「未婚化は伝統からの逸脱だ」という枠組みは、統計の上では底の位置を見誤っています。いちばん「皆婚」だった時点は、いまから百年も遡らないところにあります。
底が動くなら、「普通」の基準点も動きます。いま私たちが標準だと思っている水準は、百年後の系列のどこに置かれることになるのでしょうか。
この数字の読み方の注意
「生涯未婚率」は通称で、統計上は50歳時の未婚割合を指します。具体的には、国勢調査の四五〜四九歳と五〇〜五四歳の未婚割合を平均した値で、五十歳を過ぎてから結婚した人は反映されません。値は国勢調査の年の確定値だけを使っていて、調査と調査のあいだの年は欠測です。折れ線でつないであっても、間の年に実測があるわけではありません。また、二〇二〇年の値は不詳補完値にもとづくため、それより前の値との比較は幅をもって読む必要があります。