通説——「日本人は本を読まなくなった」
出版市場は縮み、スマートフォンは広まった。読書の話は、たいてい「減っている」という前提から始まります。では、実際の平均はどれくらいなのでしょうか。先に答えを言います。総務省統計局「社会生活基本調査」の詳細行動分類によれば、10歳以上の人が読書に使う時間は、週全体でならした一日あたりの総平均で8分です(2021年調査)。
ここで言う総平均は、その日に本を読まなかった人も含めて、全員でならした値です。読む人だけの平均ではありません。だから短い。一日十分にも届きません。この短さそのものが、まず最初の実測値です。
一次データで測る——手元にあるのは二つの時点
2016年調査では7分。2021年調査では8分。差し引きで1分の増加、比率にすると1.14倍です。谷は2016年、山は2021年。つまり、手元にある二つの時点のうち、新しいほうが高い。
ただし、この系列で比べられるのはこの二時点だけです。詳細行動分類による読書時間の表章は2016年調査から始まっていて、それより前につながる数値がありません。だから、ここから「長期の傾向」を語ることはできません。語れるのは、時点どうしの比較まで。淡々と測ると、そういう結論になります。
意外な一点——少なくともこの物差しでは、減っていない
通説は「減った」と言います。実測の二時点は「増えた」と示しています。この食い違いこそ、この記事から持ち帰ってほしい一点です。
「読書離れ」という言葉が引き合いに出すのは、多くの場合、本の売れ行きや、本を読む人の割合といった別の指標です。一方、この系列が測っているのは、読まない人も含めた社会全体の生活時間のなかで、読書がどれだけの分量を占めるか。物差しが違えば、写る像も違います。読む人の割合が動くことと、社会全体でならした読書時間が動くことは、同じ現象ではありません。この二時点は、通説を否定する材料としてではなく、通説がどの物差しの上に立っているのかを確かめる材料として役に立ちます。
そのうえで、時期の条件をひとつ書き添えておきます。2021年の調査は、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言などが全地域で解除された直後に行われました。外出が制約され、家での時間の使い方が大きく動いた時期の、すぐあとです。この水準が感染症下の生活の変化と関係している可能性は指摘できますが、二時点のデータから因果を断定することはできません。平時に戻った次回の調査で、この値がどこに落ち着くのか。それを確かめるまでは、「増えた」もまた仮の測定にとどまります。
増えたのか、それとも、たまたま高く出ただけなのか。この問いは開いたまま、ここに置いておきます。
この数字の読み方の注意
この系列の「読書」は詳細行動分類の一項目で、宿題としての読書などは含みません。比べられるのは2016年と2021年の二時点だけで、それより前につながる系列はありません。また、2021年の調査は、緊急事態宣言などが全地域で解除された直後という特殊な時期に行われています。なお、別系統である行動者率の統計では、「趣味としての読書」にマンガを含めるかどうかの定義変更があったため、読書関連の指標を年次間で比べるときは広く注意が必要です。