通説——平均は「ふつうの世帯」の姿ではない

貯蓄の話になると、決まって平均値が引き合いに出されます。二人以上の世帯の平均貯蓄額は、最新の2025年平均で2059万円。この数字を見て「自分は平均に届かない」と感じた人は多いのではないでしょうか。ところが、同じ調査で、同じくゼロ世帯を含む定義で測った中央値は1167万円にとどまります。世帯を貯蓄の少ない順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る世帯の貯蓄現在高は、平均をおよそ九百万円も下回る計算です。間違っているのは数字ではありません。平均を「ふつうの世帯の姿」と読んでしまう、私たちの読み方のほうです。

二本の線を並べて測る

FIG.1貯蓄現在高(平均値・二人以上の世帯・全国)単位: 万円
出典: 総務省統計局「家計調査」(2002–2025)

平均値の系列は2002年までさかのぼれます。始点は1688万円。そこから一本調子で増えてきたわけではありません。世界金融危機の直後にあたる2009年には1638万円まで下げて、底をつけています。その後は持ち直しと足踏みをくり返しながら水準を切り上げ、最新の2025年には2059万円と、観測期間の最高値を更新しました。始点から比べると、およそ二割の増加です。

FIG.2貯蓄現在高の中央値(貯蓄「0」世帯を含む・二人以上の世帯・全国)単位: 万円
出典: 総務省統計局「家計調査」(2018–2025)

ゼロ世帯を含む中央値の系列は2018年からと、平均より短めです。それでも向きは同じで、増えています。最新の2025年の1167万円が、観測期間の最高値にあたります。系列内の増加率はこちらもおよそ二割。つまり、平均だけが伸びているわけではなく、真ん中の世帯の貯蓄もゆっくり増えています。ただ、平均と中央値の水準の差そのものは、ずっと大きいままです。

では、なぜ平均は中央値をこれほど上回り続けるのでしょうか。貯蓄という量には、下限のゼロはあっても上限がありません。こういう量の分布は右の裾が長く伸びて、平均は少数の大きな値に引っ張られます。ざっくり言えば、平均は分布の重心で、中央値は世帯数の真ん中。同じ現実に対する別々の問いへの答えであって、どちらかが間違っているわけではありません。そして、中央値が平均を下回るということは、平均に届かない世帯が全体の半分より多いということでもあります。「平均以下」は例外ではなく、多数派の位置を指しています。

自分の位置を知りたいなら、まず見るべきは中央値です。もっと細かく知りたければ、世帯を貯蓄や収入の順に並べて五等分する「五分位」のように、分布そのものを区切る切り口が要ります。自分がどの区分に入るかを見るほうが、平均との距離を測るより、位置の情報としてずっと多くを教えてくれます。

最大の振れは、物価高の年ではなかった

意外なのはここからです。平均値が一年で最も大きく動いたのは、最高値の更新が続く近年の物価高の局面ではありません。感染症禍のさなか、平均は1791万円から翌年の1880万円へと、観測期間で最大の上げ幅を記録しました。外出の制限で消費が抑えられたことや、特別定額給付金をはじめとする一時的な給付との関連が指摘されています。

この一点に、貯蓄現在高という数字の性格がよく表れています。この数字は、家計が「豊かになった」ときだけでなく、「使えなかった」ときにも、「配られた」ときにも増えます。増えたという事実と、増えた理由は別のものです。貯蓄の伸びをそのまま家計のゆとりが増えた証拠と読むなら、それは測っていないものを語ることになります。数字は、増えた理由までは教えてくれません。

この数字の読み方の注意

本稿の数値は総務省統計局「家計調査」の貯蓄・負債編によるもので、対象は二人以上の世帯です。平均・中央値とも、貯蓄現在高「0」の世帯を含む定義でそろえています。公表資料が主に載せている「貯蓄保有世帯の中央値」(ゼロ世帯を除く)とは定義が異なるため、混ぜて比べることはできません。また、集計は貯蓄・負債が不詳の世帯を除いて行われており、世帯数の分布は家計収支編と必ずしも一致しません。年平均は月別結果の単純平均として算出されています。