「峠は越えた」の通説と、最新の値

テレワークはもう峠を越えた、と語られることが多くなりました。感染症下で一気に広がって、出社回帰とともにしぼんでいく働き方。通説はだいたいそういう筋書きではないでしょうか。

先に、一次データで答えを置いておきます。総務省「通信利用動向調査」によれば、テレワーク実施率の最新値は26.9%(2025年調査)です。観測の起点にあたる2021年の22.7%と比べると4.2ポイント高く、倍率にすると1.19倍。率にして二割弱の増加です。全体で見れば、しぼむどころか増えています。

位置づけも確認しておきます。最新値はおよそ四人に一人の水準です。裏を返せば、働く人の過半は、過去一年間に一度もテレワークをしていない計算になります。増えたとはいえ、実施した側が少数派であることは変わりません。

五年の推移を測る

FIG.1テレワーク実施率単位: %
出典: 総務省「通信利用動向調査」(2021–2025)

推移は、単純な右肩上がりではありません。起点の2021年は22.7%。実はこれが観測期間の谷でもあります。翌年は23.0%と、ほぼ横ばいで一年を過ごしました。ところがその次の調査で27.3%へ跳ね、2024年に28.2%の山をつけます。そして最新の2025年は26.9%。山からいくらか下げて終わっています。

ざっくり言えば、三つの局面に分けられます。最初の一年はほとんど動かず、次の一年で大きく上がり、山をつけたあとに少し下げた。ちなみに、観測期間を通じて、数字が起点の水準を下回った年は一度もありません。谷が起点と重なるというのは、そういう意味です。

整理すると、起点から最新年までの変化幅は4.2ポイント。谷は起点に、山は最新年の一つ前にあります。増えたという方向は確かですが、増え方は均質ではありません。どの一年で増えたのか。それを測ると、この系列の性格が見えてきます。

上昇は、一年の跳ねに集中していた

注目したいのは一点です。観測期間でいちばん大きな一年あたりの振れは、山の年ではなく、起点の翌年から山の前年にかけての上げでした。しかもその幅は、全期間の変化幅である4.2ポイントをわずかに上回ります。つまり、この五年間の上昇は、事実上その一年に集中していたことになります。残りの区間の動きを全部足し合わせると、数字はごくわずかに目減りしている計算です。線は坂ではなく、一段の段差を描いています。

通説が思い描く時系列は、急増して急減する山型でしょう。ところがデータが描くのは、横ばいから一段上がって、その高さをおおむね保つ形に近い。一年で全期間分を上回る動きがあったということは、変化がその一年に集中していたことを示唆します。ゆるやかに普及していったイメージで眺めると、この形は見誤ります。

「出社回帰」がデータに表れていないわけではありません。山から最新年への下げが、それにあたります。ただ、その下げ幅は跳ねの幅を大きく下回ります。数字は跳ねる前の水準に戻ったのではなく、一段上がった場所で足踏みしている。峠を越えてしぼんだと読むには、下げが小さすぎます。

跳ねが観測された時期は、感染症への社会的な対応が転換していった時期と重なって見えます。ただし、この調査が数えているのは「過去一年間に実施したことがある」と答えた人です。増えたのが常時の在宅勤務者なのか、年に数日だけ試した人なのか、この数字だけでは決められません。水準が保たれている背景については、実施を支える制度や環境が感染症対策の局面を過ぎても残っていることとの関連が指摘されています。とはいえ、データが示すのは、水準が保たれているという事実までです。

このまま下げが続くのか、それとも段の上で止まるのか。答えは、次の調査を待って測るほかありません。

この数字の読み方の注意

この実施率は、企業等に勤める個人のうち、過去一年間に一度でもテレワークを実施したと回答した人の割合です。毎日在宅で働く人の割合ではありませんし、実施の頻度や日数もこの数字からは読めません。また、テレワーク制度を導入している企業の割合は別の指標なので、この実施率と混同はできません。年次はいずれも調査年を指します。